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他人に合わせても…………


「他人に合わせても何の得にもならない」同調せず生きる


周りに同調しないといけない「空気」、苦しくないですか。すり抜けるにはどうすればいいのでしょうか。不登校を経て花開いたシンガー・ソングライターの吉澤嘉代子さん、日本的な「空気」の正体を喝破した劇作家の鴻上尚史さん、バカ正直に突き進む主人公が活躍する「同期のサクラ」の脚本家、遊川和彦さんらに、「合わせない」生き方の楽しさ、強さを聞きました。


苦しい教室内の友情


千葉県松戸市の高校2年の女子生徒(17)は、カラオケに1度行かなかっただけで、グループの7人全員から無視された。「いまはわかってくれる友達とだけつきあいます」。限度は2~3人までだと感じる。

 誰とでもつながれるSNS全盛の時代でも、中・高生のコミュニティーの中心はリアルな人間関係のある学校らしい。中・高生の実情を調査したマイナビティーンズとビデオリサーチの結論だ。とくに女子生徒にこの傾向があてはまるという。「彼女たちはクラスの仲良しグループなどを中心に行動していて、それがすべて」(マイナビティーンズ事業部)

 ♪たのしいくるしいおともだち/(中略)おそろいの入れ墨/こころに彫っている


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 シンガー・ソングライターの吉澤嘉代子さん(29)は作詞した「なかよしグルーヴ」で、ファンク調の曲にラップも交えて中学生の友情の苦しさを歌い上げる。中学生から「私のクラスそのまま」というファンレターが届く。自身を「筋金入りの不登校」という。集団になじめず幼稚園のころから休みがち。小学5年~中学3年は学校に行けなかった。「私が書かねば誰がやる、と。自分の見聞きした体験ももとになっています」


日本特有の「空気」の正体


 「空気」とはなんだろう。

 昨年、中・高生に向け、『「空気」を読んでも従わない』(岩波ジュニア新書)を出した劇作家の鴻上尚史さんは「日本はそもそも農耕社会であり、かつ島国で、異文化に侵略されてないため同調圧力が強くなった」と話し始めた。


 江戸時代までの日本人には、自分と関係ある人たちだけでつくられた「世間」しかなく、関係ない人たちでつくられた「社会」という考え方はなかった。日本人は運命共同体である「世間」内で周りに合わせて生きてきた。明治期に近代国家に移行してから、工場や軍隊、会社など「社会」という考え方を強引に導入した。しかし、何百年と続いた「世間」は中途半端に残り、日常の様々な場面で現れる。その名残が「空気」だ。

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 近年、特に同調圧力を感じるのはなぜか。鴻上さんは「『絆』が強調される時はだいたい経済的に不安だったり落ち込んだりしている時。勝ち続けていればエネルギーは外に向かい、絆の比重は下がる」。高度経済成長が続いた昭和のころは、右肩上がりで発展するという幻想が同調圧力をゆるめていたという。「でも、いまは先が見えないから、内向きになる」


 一方、長い目で見ると「世間」は弱くなりつつあるという。#MeToo、LGBTQといった言葉が広がり、「世界は個人の自由や権利を拡大し、保障する方向に進んでいる」。中・高生には、学校のような一つの強い「世間」だけではなく、複数の弱い「世間」に所属することを勧める。強い世間の息苦しさをスルーし、同調圧力をすり抜けられる。「それは趣味から始まるかもしれない」



合わせるだけではない自分


 昨年12月の東京・原宿。手を伸ばせば届く近さで歌い、踊りながら数人のファンに視線を送っていたのは、近年急増した「会いに行けるイケメン」、メンズ地下アイドルだ。熱い視線で応えていた高校1年の伊藤伽歩さん(16)は、アイドルに小さく手を振り、手を振り返されると顔を伏せて照れた。会場は明るく、小さい。ステージからも一人一人の顔がわかる。「私たちを認知してくれる。衝撃です」。新しい「推し」になる予感がした。


 中学生のころ、「クラスの友達とこの先もつきあい続けると思うと、自分の発言がどうとられるかが気になって仕方なかった」。どう生きれば良いのかわからなかった。人見知りして、周りに同調しかできなかったある日、ニコニコ動画などに自身が歌う「歌ってみた」動画を投稿する「歌い手」のライブに行った。「明るくて活発な」歌い手にあこがれ、自分もなったつもりで過ごすと、人と話すのが苦ではなくなった。ツイッターで「推し」が同じ同志との交流が生まれ、ともにライブにも行った。「大好きな『推し』に見合う人間になりたいと思った」。合わせるだけではない自分になっていた。


 メンズ地下アイドルや歌い手に限らない。俳優、お笑い芸人……。ときに身近にふれあい、あこがれを抱く存在は、発信側の意図にかかわらず、受け取る自分自身が思い描く姿となる。それが周りに流されずに生きる力になる。


 


10代後半、曲をつくり、家族に披露していた吉澤さんは、人気バンド、サンボマスターのライブで人生が変わった。それまで、大好きなのに、彼らの言葉を信じて良いか疑ってもいた。でも野外ステージで生の声を聞き、「どうでもよくなるぐらい、自分めがけて歌っていると思えた。自分がどう受け取ったか、それがすべて」と発想が変わった。同じステージを目指し、路上演奏をはじめた。



忖度知らずの主人公


 「人に合わせる人生は、むなしくないですか?」と問いかけるのは、数々の合わせない人を描いてきた脚本家の遊川和彦さん。4人きょうだいの3番目で、目立つことで存在理由を確立してきた。


 先月まで放送された日テレ系ドラマ「同期のサクラ」は、空気を読めず、バカ正直に突き進む主人公サクラ(高畑充希)と、同期たちの物語。サクラは「スゥ~~」と息を吸い込むと歯に衣(きぬ)着せずモノを言う。一方で自分が良いと思ったものは「ひじょーにいい」と絶賛する。3月公開の映画「弥生、三月」にも、忖度(そんたく)知らずで周りとぶつかる主人公が登場する。


 「他人に合わせても、あなたの人生を決めてはくれないし、責任もとってはくれない。合わせても何の得にもならないということを覚えておいてほしい」

 同調圧力は一方向に働くけれど、その逆は十人十色。「合わせない」はいろいろあるのがいい。(興野優平、松本しゃ知)


アサデジより転写 13日版




by tomoyoshikatsu | 2020-01-21 00:00 | 呟き と 嘆き