家庭の「 しつけ 」???
40歳で産んだ息子、21年たってした「初めての質問」
米国に住む重度の自閉症の男性が発した言葉が、母親によってツイッターに投稿され、大きな反響を呼んでいる。ほとんど話したことがなかった息子の言葉に母親は喜んだが、同時に、息子が一人で抱えていた苦しみも知ることになった。母親が朝日新聞の電話取材に、当時の心境を語った。
男性は、フロリダ州ネプチューンビーチで両親と暮らすデービッド・ブロックさん(21)。重度の自閉症を抱え、質問に対して単語で答える以外、話したことがなかった。
40歳でデービッドさんを出産した母親のケリーさん(61)は、21年間、片時も離れずに息子を見守ってきた。「できる限り良い人生を息子に歩んでもらおうと、ただそれだけを気にかけてきました」
そんなデービッドさんが10月中旬、母親に向かって突然、言葉を発した。自宅のテレビで、大好きなアメフトを見ていた時のことだった。
「アイ、ラブ、ジャグ、ワーズ(僕は、ジャガーズが、好き)」
ゆっくりとした言葉だったが、ケリーさんにははっきり聞き取れた。「もう1回!」。そう頼むと、デービッドさんはくり返してくれた。「もう1回!」。それが何度も続いた。
「それは彼が自発的に話した初めてのセンテンス(文)でした」とケリーさん。デービッドさんは、地元の米プロフットボールリーグ(NFL)チーム、ジャクソンビル・ジャガーズの大ファンで、試合を録画してテレビで何度も見ているという。
ただ、それだけではなかった。10月30日、デービッドさんは今度は「初めての質問」をしてきた。
「誰か、僕のこと、好きになって、くれるかな」
デービッドさんは自閉症のほかに「免疫不全症」も患っている。感染症にかかりやすいため、他人との接触を避け、ケリーさんがつきっきりで面倒を見てきた。ただ、両親しか知り合いがいないという寂しさを抱えてきたのだと、ケリーさんはこのとき悟った。
「彼は友だちがほしい。でも、その作り方がわからないんだ」。ケリーさんは泣いた。そして、デービッドさんにこう説明した。「私もお父さんも、神様もみんな、デービッドを愛しているのよ」
その日の午後、ケリーさんはなにげなく、ツイッターにこう投稿した。
「21歳の私の息子は自閉症で、コミュニケーション能力がありません。きょう、彼は私に初めての質問をしました。誰か僕のことを好きになってくれるかな、と」
この投稿は広く拡散され、世界中から反響が寄せられた。「デービッドにロンドンに友だちがいると伝えて」「ヨルダンより。君に会ったら僕は君をきっと好きになるよ」
その返事一つひとつを、ケリーさんは息子に読んで聞かせた。翌日には、デービッドさんが「ともだちのみんな、僕を好きになってくれて、ありがとう」と自筆のメッセージを掲げ、笑顔で写真にうつる姿をツイッターに投稿した。
米メディアなどが一連の出来事を報じると、ジャガーズの選手たちもツイッター上でメッセージを送った。「元気か? デービッド。ウィー・ラブ・ユー」
「携帯の通知が鳴りやまないんです。そんなことは経験したことがありませんでした。信じられません」。そう話すケリーさんには今、息子と一緒にしたいことがあるという。ジャガーズの試合を、初めてスタジアムで観戦することだ。(ニューヨーク=藤原学思)
アサデジより転写 7日・06:45