満員の東京ドームに青やピンクの数万のペンライトの光が波打つ。自分もペンライトを振り、歌詞を口ずさむ。観客の歓声が鼓膜を震わせる。
井上龍之介さん(22)=大阪市西成区=は昨年11月、アニメ「 ラブライブ! サンシャイン!! 」の声優たちのコンサートを、友達3人と見に来た。友達との旅行は初めてだ。
ドームからホテルへの帰り道。井上さんが「 一番好きな曲も生で聴けて、メッチャよかった 」と言うと、
藤原翔也さん(28)が「 オレも好きな曲やし、いや、たしかによかったわぁ 」と応じた。ひんやりとした夜風が心地よく感じられた。
井上さんは先天性の脳性まひだ。両足は少し動くけれど、右手は指をグーやパーにするのが難しい。電動車いすのレバーは左手で操作する。
6歳のとき、障害児入所施設に預けられた。両親は一度も面会に来なかった。理由はだれからも聞いたことがなかったが、障害があるから育てられなくなったのだろうと思っていた。
「 ラブライブ! 」をたまたまテレビで見たのは、特別支援学校高等部で学級委員に選ばれ、周囲の期待に無理に応えようとして苦しさを感じていたころだった。小さな女子高に通う9人が人気アイドルグループをめざす物語。登場人物は可愛くて歌がうまくて、でも、悩みを抱えていて。壁を乗り越えようとする姿に自分を重ねた。
7人の共同部屋で消灯後、他の人を起こさないよう、音量を絞って小さくして、こっそりと番組を見るようになった。深夜の30分の放送時間だけは嫌なことを忘れられた。
でも、声優たちのコンサートに行けるなんて考えもしなかった。外出するのには施設の許可が必要だったし、身の回りの世話をしてくれるヘルパーで、つきあってくれそうな人もいなかった。
18歳のとき、障害者の自立を手助けするNPOの支援を受け、施設を出た。賃貸マンションでの一人暮らし。1年ほどは、外に出なかった。そんなときに来てくれたヘルパーがアニメ好きの藤原さんだった。
藤原さんがある日、アニメのフィギュアを持ってきてくれた。「 いいなぁ、それ、どうしたん? 」と聞くと、「 ゲーセンで取ってん 」と言った。
「 オレも取りたい 」
「 じゃ、行こうや 」
アニメショップが並ぶ大阪・日本橋へ、一緒に通うようになった。藤原さんにアニメ好きのヘルパーたちを紹介してもらい、仲間も増えた。
アニメは、単なる心の支えではなくなっていた。
東京ドームでのコンサートの翌日、4人で神田明神に行った。「 ラブライブ! 」の登場人物が巫女(みこ)のバイトをしているという設定で、ファンから「 聖地 」と呼ばれるようになった場所だ。
境内を進み、手を合わせた。
友達の一人から「 願い事、何したん ? 」とたずねられた。
「 次のライブでもチケットが当たりますように 」と答えると、
「 当たらへんわ 」とちゃかされた。すかさず、笑顔で叫んだ。
「 当たるーっ 」。3人の笑い声が、車いすの井上さんを包んだ。
(鈴木洋和)アサデジより転写