小野寺五典防衛相は10日午前(日本時間11日未明)、米ハワイ州にある陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の実験施設を初めて視察した。日本に導入する際、北朝鮮を念頭に置く弾道ミサイル防衛だけでなく、将来的により迎撃の難しい巡航ミサイルにも対応させたい考えを表明した。政府は導入を急ぐが、迎撃には技術的な課題が指摘されるうえ運用開始時期がずれ込む見通しもあり、課題は多い。
小野寺氏や防衛省幹部が訪れたのは、ハワイ州カウアイ島の米軍施設。広大な敷地の周辺に民家はなく、視察時にミサイル探知のレーダーを稼働させたが、明らかな騒音はなかった。
米ミサイル防衛庁のグリーブス長官から説明を受けた後、小野寺氏は記者団に「レーダーは人体の影響も全くなく、通信機器などへの(電波)干渉も影響は出ていないということだ」と強調。さらに「いずれ巡航ミサイルなどミサイル防衛に総合的に役立つ基礎的なインフラに発展させていきたい」と述べ、イージス・アショアの用途を拡大させていく考えを示した。
政府は昨年末、米国からイージス・アショアを導入する方針を決定。その際、北朝鮮が開発する弾道ミサイルへの対処を理由に挙げた。だが小野寺氏が今回、放物線を描いて飛ぶ弾道ミサイルに加え、低空で飛び飛行経路も変更可能な巡航ミサイルにも活用する考えを示したのは、様々な長距離巡航ミサイル開発を進める中国を念頭に置いているためだ。
ただ、迎撃には技術的な限界が指摘される。イージス・アショアには現在の迎撃ミサイル「SM3ブロック1A」より防護範囲が広い改良型の「SM3ブロック2A」を搭載する予定。だが北朝鮮は多数の移動式発射台から一斉に多数のミサイルを撃つ「飽和攻撃」ができるとされ、「完全な迎撃は困難」(防衛省幹部)との見方が一般的だ。
また、政府は運用開始時期を2023年度と見込むが、「SM3ブロック2A」の能力を発揮するのに不可欠な最新鋭レーダー「SPY6」を米国が現在開発中。複数の政府関係者によると、米側は非公式にイージス・アショアへの搭載が23年度以降になるとの見通しを伝えてきたといい、運用開始の見通しは立っていないのが実情だ。
政府が早期導入を急ぐイージス・アショアだが、迎撃には技術的な限界が指摘され、導入すれば万全というわけではない。イージス・アショアには、現在の迎撃ミサイル「SM3ブロック1A」より防護範囲が広い改良型の「SM3ブロック2A」を搭載する予定だが、北朝鮮は多数の移動式発射台から一斉に多数のミサイルを撃つ「飽和攻撃」ができるとされる。そのため「完全な迎撃は困難」(防衛省幹部)との見方が一般的だ。
巨額の費用もネックになる。防衛省は秋田市と山口県萩市の陸自演習場への配備を予定。1基あたり1千億円弱を見込むが、高性能レーダー設備などを含め、同省内には更に膨らむ可能性を指摘する声もある。小野寺氏は視察で「米国によるコスト極小化の努力が感じられた」としたが具体的な金額には触れなかった。
23年度と見込む運用開始も不透明さを増す。「SM3ブロック2A」の能力を発揮するのに不可欠な最新鋭レーダー「SPY6」は米国が開発中。複数の日本政府関係者によると、米側は非公式にイージス・アショアへの搭載時期が23年度以降になるとの見通しを伝えてきたといい、運用開始の見通しは立っていない。
さらにロシアが懸念を伝えるなど周辺国の警戒も強まっている。日本側は「周辺国に脅威を与えるものではない」(小野寺氏)と説明するが、防衛省内では「北朝鮮対処のためと説明しても、どこまで理解を得られるかわからない」との声も漏れる。(ハワイ(カウアイ島)=相原亮)