浦上天主堂のおひざ元、平和町商店街振興組合は11月中旬まで商店主らがプロの技や知識を伝える「まちゼミ」を開いた。田川精肉店の田川兼次さん(46)は「豚のつら身を食うてみらんね」をテーマに選んだ。
田川さんの祖父が1957年に開いた精肉店は、今も豚の頭を売る数少ない店の一つ。耳、鼻、舌など五つの部位を詰めたパックを600円で売っている。家庭でしょうゆを入れた湯で30分ほど煮て切り分ければ完成。七味やポン酢などで食べる。
以前は周辺に8軒の肉屋があり、どの店でも豚の頭を売っていた。田川さんの家でも子どもの頃にはよく食卓にのぼった。しかし、最近は正月やお祝い事などの時に注文が入るぐらい。それでも、浦上出身の神父が全国から集まる会合では今も「懐かしい味」として出される地元の味だ。
12日にあった「まちゼミ」では、どーんと置かれた豚の頭に参加した4人の女性たちは、はじめはおっかなびっくり。しかし、箸をつけると「おいしい」とあっという間にたいらげた。高比良哲子さん(68)は「豚の頭が料理になるとは思わなかった。安いけど野菜をたくさん添えたら豪華に見える」と夕食用にさっそく購入していた。
長崎奉行所の資料では、出島のオランダ人のため、浦上で豚や羊が飼育されていることが記されている。田川さんは「昔からキリスト教徒が住んでいた浦上では、宣教師から肉を食べる習慣も伝わったのかもしれない。浦上の歴史を伝える食文化」と話す。「機会をみつけて紹介していきたい」と意欲を見せている。(八尋紀子)
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■つら身の作り方
①沸騰した湯2リットルにしょうゆ100ccを入れ、豚の頭を入れる。
②30分ほどゆでる。
③ゆでた豚肉を流水で軽く洗い、食べやすい大きさに切り分ける。