核といのちを考える


 核兵器を法的に禁止する「核兵器禁止条約」の交渉会議が、15日から米ニューヨークの国連本部で再開される。条約推進の中心国オーストリアと、反対する米国の当事者にその理由を聞いた。(松尾一郎、山野健太郎、田井中雅人)


 ■推進 核、人類に壊滅的な被害 オーストリア外務省・核問題担当、ロバート・ゲルシュナー氏

 生物・化学兵器や対人地雷クラスター弾は非人道的な兵器だとして、禁止条約が発効しています。核兵器だけを特別扱いにする理由はありません。

 既存の核不拡散条約(NPT)は米ロ英仏中の5核保有国に対して、核兵器廃絶に向けて誠実に交渉する義務を課しています。2010年のNPT再検討会議で採択された最終文書では「核兵器が壊滅的な人道的結末をもたらす」ことに核保有国側も合意しました。しかし、その後の核軍縮に具体的な進展が見られないことに、非核保有国側の不満が高まっています。

 私たちはここ数年、核兵器は安全保障の側面よりも、人類に壊滅的な被害を与える事実に即した「人道的アプローチ」をとり、核保有国側もこの議論に加わるよう求めてきました。

 状況は変わり始めました。14年にウィーンで開催した第3回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」に米英は参加してくれました。彼らにとって難しい議論に加わってくれたことに感謝しています。

 核保有国にとって、核兵器には軍事・安全保障だけでなく巨大な産業利益もからみますから、抜け出すのは容易ではないでしょう。そういう商業的思考からの脱却をも、私たちは禁止条約によって後押ししようとしているのです。

 条約の成立が、ただちに核兵器廃絶につながるわけではありません。新たな規範をつくり、核兵器に「悪の烙印(らくいん)」を押すことで、それを使えなくしていく。条約は、そういう長い営みの新たな出発点なのです。

 日本の市民社会やNGOからの提案を受け、私たちは条約に「ヒバクシャ」という文言を盛り込むことを提案しました。条約に賛同するすべての国々や市民社会の合意を得られるものと確信しています。


 ■反対 北朝鮮に対処できるのか 米軍縮大使、ロバート・ウッド氏

 核兵器禁止条約の推進国側の真の狙いは、米国の同盟国の国民の間で、米国の「核の傘」に対する支持を徐々に損なわせることだ、と提案国側はひそかに我々に言っています。

 これは危険なことです。核保有国が禁止条約に参加しなければ、核兵器が1発たりとも減らないことは、推進国側もわかっているはずなのです。

 禁止条約がもたらすのはむしろ、すでに不安定化している世界を、よりいっそう不安定にすることでしょう。これは、欧州とアジアで70年余りにわたって安全保障を提供してきた核抑止に対する支持を傷つける試みなのです。

 今日の世界が直面する脅威のもっとも顕著な例は、北朝鮮からの脅威です。禁止条約の推進派の動きは緊張する国際環境の問題を完全に無視していますが、核軍縮は国際安全保障環境と切り離せないものです。推進派の動きは「核抑止」を違法化する試みです。

 国際社会と核兵器の関係を定める既存の法的枠組みは、核不拡散条約(NPT)です。禁止条約の提案国側の狙いは、(別の)新しい法的枠組み作りでしょう。相当数のNPT加盟国は、禁止条約がNPTに否定的な影響を与えると、とても懸念しています。

 さらに、禁止条約の提案国側は、北朝鮮問題をどう扱うのか、答えることができていません。

 「あなたがたは、核兵器が禁止され、(一方で)核兵器を持つ北朝鮮に直面するような状況を好みますか」という、仮定の質問を世の中に対して投げかけてみましょう。

 日本国民は、米国の「核の傘」から抜け、北朝鮮からのより挑戦的で危険な脅威に(核兵器なしで)対処しなくてはならない世界を望む、と答えるのか。私には確信が持てません。


 ■長崎、五感で原爆感じた 条約交渉会議議長・コスタリカ大使、エレイン・ホワイト氏

 3月の核兵器禁止条約交渉会議の冒頭で、日本政府は交渉不参加を表明しました。唯一の被爆国・日本の歴史的な経験は、世界中から注目されています。交渉不参加だった他の国々も、これまでの交渉の経過を注意深く見ているはずです。

 会議が再開されるこの機会に、3月の交渉に参加していなかった国にも参加を再検討し、会議に貢献してもらいたいと思っています。私は希望を捨てていません。

 4月に長崎を初めて訪れました。長崎に来ることは交渉会議の議長として、とても大切なことでした。72年前にキノコ雲の下で何が起きたのか。実際に長崎に来て、自分の五感で原爆の影響というものを感じ取ることができました。

 原爆資料館を見学し、被爆者の方から話を聞くという体験は決して生易しいものではありません。心に強く訴えかけるものがありました。なぜ核兵器廃絶を目指すこの運動に関わるのか、取り組まなければならないのかということを強く感じました。

 3月の交渉会議では特別な瞬間がいくつかありました。被爆者の方々が禁止条約の実現へ使命感を持って取り組んでいる姿を実際に見た場面と、長崎の若者たちが折り鶴を会議の参加者に渡してくれた場面です。参加者全員の心に強く訴えかけてくる瞬間でした。

 安全保障の面で核兵器が必要だと主張する国もありますが、20世紀の古い考え方から21世紀の考え方に移行する時期に来ていると思います。核兵器が及ぼす人道的な影響について日本の人々が声を上げることは、非常に大事なことだと思います。

 ■<解説>問われる日本の立ち位置

 核兵器禁止条約は、「核兵器は非人道的で使えないものだ」との烙印(らくいん)を押し、普遍的な価値観に訴える。米国など核保有国や日本など「核の傘」依存国が安全保障の根幹と見なす核抑止論の根本的な再考を促すのが狙いだ。

 推進側が引き合いに出すのが奴隷制度だ。19世紀後半、リンカーン米大統領が産業利益よりも人道的な価値観に訴えた奴隷解放宣言が、後に制度の撤廃に結実する。

 推進側は2013~14年、「核兵器の人道的影響に関する国際会議(人道会議)」を開催。広島・長崎の被爆者核実験の被曝(ひばく)者の証言を聞き、核兵器と人類は共存できないとの科学的知見も積み重ねた。その象徴として条約原案の前文に「ヒバクシャ」の文言を盛った。

 非核保有国とNGOが連携して核兵器廃絶を目指す営みの源流に、1996年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見がある。「核兵器による威嚇・使用は一般的に国際法違反」とした勧告的意見に、禁止条約は法的拘束力を持たせることになる。生物・化学兵器や対人地雷クラスター弾のように条約が発効すれば、核兵器の使用も国際犯罪に問われる。

 核兵器は「必要悪」ではなく「絶対悪」。条約が促す価値観の大転換に対して、世論が政策に影響力を与えうる核保有国・米英仏の政府側の拒否感は強い。これに同調して交渉に背を向ける被爆国・日本政府の立ち位置が問われている。(核と人類取材センター・田井中雅人)

 ■核兵器禁止条約原案の骨子

 ・前文で核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)の苦難を心に留めることをうたう

 ・核兵器の「開発」「製造」「生産」「取得」「保有」「備蓄」「移転(管理権限を含む)」「使用」などの禁止

 ・核兵器の自国領内への配備の禁止

 ・自国領内での核実験の禁止

 ・核不拡散条約(NPT)における権利と義務には影響を及ぼさない

 ・核兵器使用に伴う環境や健康などへの非人道的影響を認める

 ・核兵器のいかなる使用も戦時国際法、特に人道法の原則や規定に違反しうると宣言する

 ・40カ国の批准で発効。無期限有効


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by tomoyoshikatsu | 2017-06-17 14:33 | 反核 | Trackback | Comments(0)