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■稽古とちゃんこを堪能
大相撲初場所が最終盤を迎えた。オーサも相撲を見たことがあるのだが、それは国技館の最後列から眺めただけ。近くで見る相撲は、迫力が違うはずだ。それを知るには相撲部屋に行くのが一番。というわけで、場所前の一日、東京都江東区の錣山(しころやま)部屋にお邪魔した。
錣山部屋を訪れたのは、昨年末の12月28日だった。
住宅街のビル1階にある稽古場、座布団が敷かれた特等席に案内された。目の前は土俵である。まわしをつけた男が11人、次々と土俵に入り、ぶつかり、押し、転ぶ。
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立ち合いの一瞬に持てる力を放出し、土俵の外に押し出すまでその力を持続する。気合、掛け声、うなり声、ハアハアという息づかい。ピーンと張り詰めた空気。上気した肌が赤い。玉の汗が光る。
すぐ近くに錣山親方が座っていて、鋭い声を飛ばす。
「引いたら駄目」「出ろ、出ろ」「下向いたらきついぞ」「おー、いい相撲だ」
現役時代のしこ名は寺尾。小さな体ながら「鉄人」と形容されるほど長く関取(十両以上)を務めた人だ。
激しい稽古に目をやったまま、座布団の上でオーサが固まっている。「写真撮っていいよ」と声をかけると、遠慮がちにスマホでパシャッ。
後で聞くと、オーサは怖かったらしい。それはそうかもしれない。巨大な裸の男たちが目の前で激突し合うのである。激突の瞬間、「ゴツッ」という音がすることもある。グアッ、ウオッ、セイッという言葉にならない声もひっきりなし。怖いといえば、目も怖い。親方も含め、みんな目が鋭いのだ。稽古の真剣さと目の鋭さは比例するのかも、などと考えてしまう。
見学開始から2時間後、この日の稽古が終わった。
錣山親方にオーサがあいさつする。稽古時の怖さから一転、親方が気さくな雰囲気で「ちゃんこ、食べていってください」と隣室を開けてくれた。台の上に鍋やカニ、焼き魚、サラダ、肉……。さまざまな料理が山と並んでいる。「ちゃんこ料理は?」と聞くと、親方は「力士が作るものはすべてちゃんこです」。十両の青狼(せいろう)関が野菜サラダを指してにっこり。「だから、これもちゃんこです」
稽古が終わると力士たちの表情も一変する。目が柔和になり、順番を待ってちゃんこの席へ。「どれくらい食べるのですか?」とオーサが聞くと、若い一人が「ごはんは3杯です」。つまり最低限、ちゃんこプラスごはん3杯は食べないといけないらしい。
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青狼関はモンゴルから来日して11年。ちゃんこの効用だろう、来た当時は63キロだった体重が140キロになった。日本語も上手で、オーサとは日本語を使って「スウェーデンって日本から何時間?」などと情報交換し合っている。
話をしながらオーサは鍋とカニ、サバに箸をのばす。鍋は野菜たっぷり、肉少し。薄味で超美味。錣山親方にオーサが「栄養バランスはいいのですか?」と聞くと、「バランスいいって言われてるんですよね。野菜が多いし」。
錣山部屋の力士は17人で、幕下と三段目が多い。力がすべての厳しい世界だが、錣山親方はこうも言う。
「派閥や人間関係を気にしなくていいんですから、普通の会社より恵まれていると思います。力がすべて、土俵がすべての世界ですから」
オーサがおずおずと「痛くないですか?」と聞く。若い力士が笑いながら、「痛いですよ」。やっぱり、という顔のオーサ。同世代の大男たちに囲まれ、終始オーサは緊張気味だった。(依光隆明)
◆次回は2月4日です。
■オーサの一言
すっごいですねえ。数十メートル離れて見る相撲と、近くで見る相撲とでは全然違います。離れると音も聞こえないですが、近くだと痛いということまで分かります。ベルト(まわし)しかないのもびっくりしましたが、それはすぐ慣れます。
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オーサ・イェークストロム 1983年生まれ、スウェーデン出身。日本のアニメと漫画を知り、漫画家になることを決意。イラストレーター・漫画家として活動後、2011年来日。近著は、コミックエッセー『北欧女子オーサのニッポン再発見ローカル旅』(KADOKAWA)。