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被曝の歴史 対談 、、、2

■国際平和シンポジウム(7月30日、長崎市

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 司会 切通さんはこのほど「 15歳の被爆者 歴史を消さないために 」(彩流社)を刊行されました。「 クラウドファンディング 」という手法で出されたということで、ちょっとご説明いただけますか。

 切通 母が長崎で工場動員の最中に被爆したんですけれども、そのことがずっと胸にありながらも、直接そのことを話すことはなかったんです。福島第一原発の事故後、もう一つとしては、自分が原爆の被爆者ということで、核をどう考えていくのか、平和をどう考えていくのか。原子爆弾が兵器として使用されたのは長崎が最後だけれど、その後にもう一つの被曝という問題は続いていて、そちらには警戒を怠っていたのではないかという思いがあって。母はもう80歳を超えており、過去に著述業をしていたけれども、集中力も続かない年代で疲れやすくなってきて、せめてそれでもできることは何かと考えた時、1日2時間くらいブログを書きはじめた。80歳を超えた人間がブログを始めることに、僕は驚いたんですが、それでも発信していこうというんです。新聞の原発の記事に目をとめるなどして、いちど本にまとめて、その後もブログを続けていたんですが、母は普通の人ですから、普通の人が書いたブログを本にまとめて出してもらうのは悪いと思っていました。

 現在の出版事情では1冊出してもらうのが限界かなと思っていたんですが、ある脚本家の人に近況報告として話をしたら、「 戦争を体験した人の話は貴重なものでやっぱり出す価値があるし、読まれる価値があるし、届ける価値がある。お母さんに伝えた方がいい 」と言われました。

そのことで僕は自分で「 このあたりまで伝わればいい 」とか線引きをしていたことに気がついたんです。

 本の執筆段階から「 こういう本を出したいと思っているんです。どうですか 」と世間に訴えて、興味を持ってもらえないかと思ったんです。

本1冊分の値段を先に払っていただいて、必ず本をつくって、( 応援してくれた方のお名前を印字した上で )その本をお送りしますということで始めたんですね。そうしたら、自分自身も親の戦争体験を聞きたかったけれども、もう聞くことができなくなってしまったという人からも応援をいただくなどして、本を作ることができたという経緯です。

 司会 今回の本は切通さんとお母さんの対談形式で進められています。それまで向き合ってお話をうかがう機会はあったんですか。

 切通 断片的に( 体の )どこに傷があるとか、もうちょっとで大出血してたかもしれないけど助かったんだとか、そういう話は聞いていたんですが。なんとなくですね、親の世代の戦争体験は、みなさんもそうかもしれないですけれど、親個人の体験と、例えば中沢啓治さんの「 はだしのゲン 」の漫画とか、漫画で読んだ被爆体験とか、戦争が終わった時に教科書に墨を塗らされたとか、そういういろんな人の体験をパッチワークしていて、ひとりの人の過去みたいな時になんとなく映り込んでいる。

でも、母の話を聞いてみると、特に母は3姉妹の長女なんですが、3姉妹で全く見てきたものが違うんですね。たとえば母は工場動員に行った、妹は工場動員に行かなくてすむ年齢だったとか。墨塗り教科書は、妹は見ていて、母は見ていないとか。姉妹でも3人の経験が全部違うんですね。そんなに3人で違うんだというのが非常に分かった。やはりひとりひとりの体験というのは全然違うし、その人の中でずっと生きている記憶も違うんだというのがわかりました。

 司会 お母様は長崎市の茂里町にあります三菱兵器工場で被爆なさったんですよね。

 切通 大橋工場というところと茂里町工場というのが爆心地からともに1・2キロずつ離れたところなんです。芥川賞作家の林京子さんは大橋工場で工場動員されて、そのことを小説にされているんですが、母はちょうど逆の1・2キロのところで被爆しているんです。

 司会 今回、タイトルの新刊本「15歳の被爆者」の「15歳」に込めた意味をお聞かせください。

 切通 ( 当時の )日本は日本以外の場所を植民地にしていたわけですけれども、( 終戦となった8月15日に )そこがなくなって、日本本土といくつかの島に限られるようになると伝えられたといいます。

石川啄木の詩の中に、ある一節があって、日本が領土を拡大していくという時の周辺の国の人がどんな悲しい思いをしているんだろうということに思い至らせるっていうきっかけが、いわゆる反戦的な人間であったわけでなくて普通の女の子だったけれど、普通の女の子の中に少しかげりがあって、それをポツダム宣言を聞いた時にそのことを思い出したと、母は鮮明に覚えているって言うんです。

15歳って、全くの子どもじゃないわけですよ。童歌を歌ってるというだけの子どもじゃないんです。

そういう意識が非常に鮮明で、子どもなんだけど、そういうことをキャッチする能力があった。その15歳を境に、勉強嫌いの母が勉強に目覚めていく。

戦前は女子が大学に行くことが一部の例外を除いてできなかったんですが、大学で勉強しようと思ったきっかけが、おそらくポツダム宣言の意味を知ったことがすごく大きくあると僕は思っています。「 15歳 」ってすごく意味があると思い、このタイトルにしました。

 司会 本のあとがきには、切通さんが映画「母と暮せば」をごらんになった時のことが書いてらっしゃいます。そのときのことをお聞かせいただけますか。

 切通 僕は映画監督の山田洋次さんが好きで、「 山田洋次の〈 世界 〉 」という本も過去に出しているんですが、新作の発表だということで、会場に行ったら、いきなり幕が開いて、吉永小百合さんがいて、すごく豪華な記者会見だったんです。

そこでタイトルが「 母と暮せば 」と明かされました。長崎に原爆に対する、繰り返しちゃいけないという思いを山田洋次さんが話してくださった。

 ちょうど母にこの話をしていたとき、母は少し懐疑的だったんです。被爆のことを平和への祈りとかいって映画にしたりコンサートにしたりするけれど、自分は行ったことがないという。

「 それは被爆してない人に見せれば良いんじゃないか 」と思っていたというのです。何となく抵抗がある、と。そういう被爆体験をもとにしたものに触れることに、母は、何となく後回しにしたい気持ちがあったんですよね。

 実際、映画が公開されたとき、母と見に行ったんです。そうしたら、吉永小百合さんが演じる母親と、親しくしている黒木華さん演じる学校の先生がでてきました。

実はその先生が、母と同じ茂里町工場に動員で行っていて、その日たまたま病気で休んで被爆死しないですんだと映画のなかで言うんです。

先生の級友が死んで、そのお母さんに会いに行ったとき、最初「 生きてて良かったね 」って抱きしめられたけれど、自分がその日は休みだったと聞いたとたん、つないでいた手を離された。断絶を感じて、自分の罪悪感みたいに思っていると語るのがその黒木華さんが演じる先生なんです。

映画では、吉永小百合さんが演じる母親の息子が被爆死するんですが、その黒木華さんが演じる先生の恋人だった。

生きている間に恋人だったんですが、霊となって現れるんですね。( 愛していた恋人が新しい人生を歩み出すことに )いろいろ葛藤はありますが、だんだんと、やっぱり生き残った恋人の幸せを考える、生き残った人の幸せを考えることが自分たち被爆して死んだ人間ができることなんじゃないかということを母親に語るシーンがあるんです。

その映画を見たときに、活字の本が敗北したなと思ったんです。

 ( 僕との対談の中で )母は「 記憶にふたをした 」という言い方をしているのですが、非常に淡々と、起きたことに語っているが、感傷的に高ぶることについては発言していないんです。だから、対談の中で、感極まって泣いたということは全然ないんですよ。

 

ところが、映画「 母と暮せば 」を見て帰って、その映画について雑談してたときに、突然母が泣き出したんですね。どういう涙だったのかというと、山田洋次監督が一つのファンタジー的手法を取り入れて、映画でしかできない手法を取り入れて、要するに、亡くなった人間の霊がいま生きている遺族である母親に会いに行き、生き残った人に対して、「 生きていて良いんだよ。新しい人生を歩んで良いんだよ 」という風に言ってくれたんです。

 僕は映画の力をすごく感じたんです。幽霊が出てきて、そういうことを言うことはあり得ない設定なんですが、だけどそういう設定に山田洋次さんがした意味がすごく分かったというか、現実には絶対それは誰もやることができないことを、映画という形にして示したときに、やっぱり、ある種の情動を刺激することがあるんだと、僕は思いましたね。

 司会 映画のお話が出ましたがどうですか、杉野さん。

 杉野 映画を作る上で常に葛藤はあります。たとえば、こういう戦争の話を映画化する際に自分はそういうことを語ったりとか、描いていく資格があるのかなということは常に考えてしまうんです。

常に、後ろめたさだったりとか、ためらいだったりとかがある中で葛藤しながら、それでもやっぱり作ることに意味があると思って作り続けてはいるんです。そういうことの繰り返しで映画を作っている。観客の方の反応があって、「 作ってくれてありがとう 」ということを言われるとすごくうれしかったりしますね。

【対談:3へ続く】明日の投稿で、、、、

アサデジ より!!!


by tomoyoshikatsu | 2016-08-27 05:33 | 反核